巷で話題?の高解像度 HMD「HP Reverb G2 」レビュー

はじめに
こんにちは、桜月です。今回 Dat VR 様の Feel the Z プログラムにより、HP
製高解像度 Windows Mixed Reality VR ヘッドセットの「Reverb G2 」を 1 か月ほどお借りする機会を頂けたため、手持ちの同じく Windows Mixed Reality
VR ヘッドセットである Samsung Odyssey+ と様々な点を比較しながらレ
ビューをさせてもらいたいと思います。
HP Reverb G2とは?
HP が発売している Windows Mixed Reality 対応の VR ヘッドセット。前モ
デルに G2 の付かない Reverb という VR ヘッドセットがあり、この Reverb G2
はその後継機に当たる。HP の製品サイトによると、業界トップクラスの解像度、
没入感の高いオーディオ、4 つのカメラによる広範囲なインサイドアウト方式
のトラッキング範囲を主に売りにしているようだ。SteamVR では Windows
Mixed Reality も対応しているため、基本的に SteamVR で遊べるゲームは
Reverb G2 も含め Windows Mixed Reality 全機種で遊ぶことができる。(一
部例外もあるため確認は必要)
*以降、Windows Mixed Reality を WMR と省略して表記する場合もある。
開封
こちらは斜め上からの撮影。オフィスのスピーカー、頭に装着するためのバンドやクッションなどが見える。
正面斜め前からの撮影。頭の後方から支えるクッションの距離を調整するバ
ンドや、売りの 1 つである広範囲になったトラッキング範囲を実現するための
追加の側面のカメラなどが見える。
本体下面の撮影。IPDを無段階にハードウェア調整できるスライドなどが見
える。
コントローラ。こちらは詳しくは後述するが、Reverb G2 では他の WMR 機
と違いトラックパッドが廃止され代わりに X, Y ボタンへと置き換えられたもの
となっている。なお形状やボタン配置などが異なるが WMR 同士で規格は共通
のため、他の WMR 機器を所持しているなど以前のタイプの WMR コントロー
ラが手元にある場合それを代わりに接続して使用することも可能である。
こちらは同梱されていた USB Type C レセプタクル(メス)→Type A プラ
グ(オス)変換アダプタ。Reverb G2 は USB ケーブルの端子が Type C である
ため、Type C の端子を持たない PC でも利用できるよう同梱されているものと
思われる。大きな注意点として Type C レセプタクル(メス)を Type C 以外に
変換するアダプタは USB 規格では定められておらず USB 規格外品であり、用
途を間違えると意図しない動作を引き起こす可能性や接続した機器や PC の故
障、最悪の場合発火を招く恐れもあるため用途外、すなわち Reverb G2 を接続
する以外の使用は避け、Reverb G2 で使用する際も細心の注意を払った方が良
いと考えられる。(もちろんこのアダプタを使用しないで済むのが一番ではあ
る。)
カタログスペックでの比較
まずは実際の使用感を比較する前に、カタログスペックにて筆者が普段愛用
している Samsung Odyssey+ とこの Reverb G2 を比較してみたいと思う。
Samsung Odyssey+
プラットフォーム:Windows Mixed Reality
ディスプレイ:片目 1440x1600, 有機 EL(*Anti-SDE), 90Hz
視野角:110°
トラッキング:インサイドアウト(カメラ:正面 2 つ)
オーディオ:AKG Premium Audio, デュアルマイク
IPD:ハードウェア物理調整(無段階)
重量:590g
接続:HDMI2.0 , USB3.0 (Type-A )
値段:約$500 (約¥55,000 )*すでに生産停止のため入手困難
HP Reverb G2
プラットフォーム:Windows Mixed Reality
ディスプレイ:片目 2160x2160, 液晶, 90Hz
視野角:114°
トラッキング:インサイドアウト(カメラ:正面 2 つ, 側面 2 つ)
オーディオ:オフイヤースピーカー, デュアルマイク
IPD:ハードウェア物理調整(無段階)
重量:約 500g
接続:DisplayPort1.3 , USB3.0 (Type-C)
値段:¥65,780 (税込)
カタログスペックは以上に挙げた通りで、購入を検討する上で特に気にする
であろう部分や特徴的な部分に色を付けた。こうしてみるとカタログスペック
上では、ディスプレイ解像度、視野角、トラッキング範囲、重量は Reverb
G2、ディスプレイの発色、とりわけ黒表現と価格には Odyssey+に軍配が上が
る感じである。値段は 1 万円ほどの差が許容できるなら、あくまでカタログス
ペック上ではあるが、黒表現以外は Reverb G2 の方が全体的に高性能そうであ
る。
実際に使用してみての比較
実使用での比較を出す前に、比較環境である筆者の PC スペックについて軽
く触れておく。
・比較環境
CPU:Ryzen7 5800X
RAM:DDR4 3200MHz 64GB (32GB x2)
GPU:RTX3090 (VRAM 24GB )
以上が比較環境であり、PC スペックがボトルネックになり正しく比較ができな
いといった事態は十分に避けられそうである。
ここからが実際に使用しての比較であるが、Reverb G2 を初めて使用したと
きの感想は、「ここまで見える世界が違うのか!」であった。それはもうあり
とあらゆる景色がくっきりはっきりと見えるのである。とりわけオーバーレイ
ツールなどでデスクトップ画面を映したときの文字の見やすさが顕著 で、
1440x1600 の解像度では相当近づかないと小さな文字は読むのに苦労したが、
2160x2160 の解像度を誇る Reverb G2 では多少離れていても文字が楽々と読め
てしまうのである。HMD を着けたまま Unity の作業をするのも大変快適であっ
た。ただし注意しなければいけないのが、解像度が高いということはそれだけ
描画負荷も高いということである。普段筆者は Odyssey+ にて内部レンダリン
グ解像度である SteamVR SS の値を 200% にて運用しており、Reverb G2 では
今回 120% ほどで常用していたのであるが、負荷的には Reverb G2 での 120%
運用は Odyssey+ (1440x1600)での 300%運用を凌ぐものすごい負荷がかかり、
VRChat など描画負荷の高いゲームをする場合は例え RTX3090 といえども性能
が十分とは言えない、そんな印象を感じた。
さて次に解像度以外の部分はどうであったかというと、まず画質周りである
が、解像度の高さにより没入感の妨げになるスクリーンドア効果(*解像度の
問題などから画面に生じる網目模様のこと)は皆無といっていいほど感じな
かった。液晶の発色についても良好で、特に色が薄かったり濃かったりするこ
ともなくかなり正確な色が表現されていた、のだが唯一黒表現についてはやは
り有機 EL でなく液晶故の欠点か、暗いところでは画面が白っぽくなる、コン
トラストが高いとまでは言えず濃淡が潰れて見づらい場合があるなど没入感を
やや妨げるものがあった。ただし黒表現については長期間使用して慣れたり、
有機 EL を経験したことがなかったりすればそれほど気にならないのかもしれ
ない。視野角については、カタログスペック上では Odyssey+ より Reverb G2
の方が 4°程度広いことになっているが、実際に使用してみると水平視野角につ
いては一目でわかるほど明らかに Odyssey+ の方が広く、また垂直視野角につ
いても若干 Odyssey+ の方が広かったため双眼鏡を覗いているようなやや没入
感に欠けるところがあった。Reverb G2 はカタログスペックに対して十分な視
野角を確保できていないようである。ただしこちらについても慣れればそれほ
ど重大な没入感の妨げというほどでもなさそうである。画質面では最後に
HMD のレンズのスイートスポット(*レンズはその範囲全てがくっきり見え
るわけではないためくっきり見える部分とそうでない部分がある)についてで
あるが、若干狭い気がしなくもないが、欠点として挙げるほどのものでもない
といった感じであった。中心から少し外れるとスイートスポットから外れやや
ぼやけてしまうのだが、元の解像度が高いせいかぼやけていても Odyssey+ を
気持ちぼかした程度に感じたためそれほど気にならなかった。
画質の面は以上であるがそれでは画質以外の部分はどうであるか、まずは着
け心地の面から言うと、フェイスパッドは良くできておりOdyssey+と同様非常に良い感触であった 。強いて言えばパッドのカーブがやや強めであり、顔が
大きめの人やカーブが緩い人だと少々窮屈さを感じるかもしれない。重量は超
軽量とはいかなくとも重量級な重さはなく軽めな部類で、さらに HMD 本体の
支え方が後頭部の大きなパッドをマジックテープ式のベルトで長さを調整しそ
の後帽子のように被る方式で重量が分散され、また締め付けもないので快適で
あった。ただし締め付けをしない分当然激しく首を振るなどの動きをするとず
れやすい点には注意が必要である。
画質、着け心地と来るとおそらく次に気になるのがコントローラ・トラッキ
ング周りであろう。まずトラッキング範囲であるが、Reverb G2 は他の WMR
HMD と違いトラッキング用のカメラが左右側面に 1 つずつ追加されており、こ
れがどう影響するのか。他の一般的な WMR HMD ではトラッキング範囲は通
常の使用であればそれほど気になることは少ないのだが上下左右ともに広いも
のとは言えず、状況次第では不便を感じる場面もたびたびあった。これに対し
てカメラが計 4 つとなった Reverb G2 では、カメラ配置から上下は相変わらず
広いとは言えないものの左右に関しては非常にトラッキング範囲が拡張されて
おり、およそ一般的な人間の腕の左右の稼働範囲はほとんどカバーしていると
いってもいいほどであった。上下が狭いままな点は残念であるが筆者の利用で
は上下よりも左右の狭さに不便を感じる場面が比較的多かったため、十分満足
のいくものであった。トラッキング範囲については以上で次にコントローラそ
のものについてであるが、形状は手にフィットするようで比較的持ちやすくま
た電池込みでも重さも重すぎず丁度良いもであった。強いて言えば持ち手がも
う少し長いとより重心バランスが取れるかといったくらいであった。ここまで
聞くとかなり良さそうなのだが、Reverb G2 のコントローラは一つ大きな問題
があった。旧型の WMR コントローラと違いトラックパッドが廃止されている
のである。Oculus のコントローラ等トラックパッドが付いていないものはある
から問題ないだろうと思う人も居るかもしれないが、これらのコントローラと
Reverb G2 コントローラには決定的な違いがある。それはタッチセンサーの有
無の違いである。大抵の VR 対応ゲームでは特に大きな問題になることは少な
いかもしれない、しかし例えば H3VR や VRChat のように複雑、あるいは多彩
な操作を要求される場合にこの違いが問題になることがある。H3VR ではト
ラックパッドよりはやや不便だが一応一通りの操作は問題なく行えた。しかし
問題が顕著なのが VRChatでの使用で、結論を言ってしまえば必要最低限の操
作はでき普通に遊べるのだが、コミュニケーションを円滑に進める上で外せな
いハンドサインやそれを使った表情の変更が致命的にやりづらいのである。具
体的には Reverb G2 コントローラでは、Oculus や旧型 WMR コントローラ等
と違いタッチセンサーでのハンドサイン切り替えが出来ずサムスティックを倒
してハンドサインを切り替えるのだが、スティックを倒すということはつまり
移動や視点の回転も同時に行ってしまい、表情だけその場で切り替えるといっ
たことができないのである。Reverb G2 について批判的な意見を目にするとき
は、大抵この新型コントローラの使い勝手が原因であろう。
さて文章が長くなってきてしまい申し訳ないのだがもうしばらくお付き合い
願えたらと思う。音声周りについてであるが、まずヘッドフォンは 耳に直接触
れないオフイヤータイプのため着け心地は良好。音に関しては低音はそこそこ
出て高音もそれなりに出るがあまり高い高音はキンキンすることもあり、 良く
も悪くもHMD付属品の域を出ない感じである。筆者の音周りの環境は作曲を
するような環境であり普段 VR では多少良いイヤホンを使用しているのだが、
やはりそういったしっかり作られた物と比較すると物足りない部分が多く、 音
にこだわりのある人は別に専用のオーディオを用意した方が良いと感じた。オ
フイヤータイプは耳への押さえつけがなく耳への負担は少ないが、その構造故
に周囲の雑音も耳に入りやすくまた音漏れも非常に起こりやすいためその点は
気を付ける必要がある。マイクに関しては筆者が普段音声認識を利用している
ためその視点からの感想であるが、Odyssey+ と比較して感度は若干良いが音質
はやや劣るのではないか(誤認識が少し増えた)と感じた。そしてこれは特に
VRChat などボイスチャットを利用する場合の話であるが、オフイヤースピー
カー方式でありマイク感度が若干良いという組み合わせの都合上スピーカーの
音声をマイクが想像以上に拾いやすく、さらに拾っていても本人は気付きにく
い上に自分は大丈夫でも周囲にとっては非常に迷惑になってしまうため注意が
必要である。
さて本当に長々となってきてしまったが、最後にその他の部分について書き
たい。Reverb G2 は接続周りのトラブルを良く目にするが実際はどうだったの
かという点である。ケーブル末端は USB Type C であり付属品として USB 規格
外品の Type C レセプタクル→Type A 変換アダプタが付いているが、私の環境
でも正常に接続させるのには相当苦労させられた。色々検証した結果わかった
のが、USB 内部バスが CPU 直結であるかチップセット接続であるか、さらに
Type C や Type A (付属の変換アダプタ使用)、USB 3.2gen1、USB 3.2gen2であるかに一切関わらず何度試してもマザーボードリアパネルの USB ポートに
直接接続した場合は Mixed Reality ポータルにてエラーが表示され正常に接
続・使用ができないということである。さらに PCIe 接続の USB3.0 Type A 拡
張ボードに接続した際も同様にエラーで使用ができなかった。では最終的にど
うやって筆者が Reverb G2 を利用したのかといえば、なんと大元の USB ポー
トに差すのではなく間に USB3.0 の USB ハブ(PC ケースフロントにある USB
ポートは内部的には基本的に USB ハブとして処理されているのでそこに接続で
も可)を挟みそのハブの USB Type A ポートに接続したらあっさりとエラーが
消え正常に接続ができたのである。他にもより様々な環境でも検証できれば
もっと確実な情報が得られるかもしれないが筆者の持ちうる環境ではこの検証
が精一杯であった。もし Reverb G2 を購入する・した方で接続トラブルに悩ま
されている場合は、VR HMD で一般的に推奨されているマザーボード背面への
直接接続でなく間に USB ハブを挟むことをぜひ試してみてほしいと思う。余談
だが、Reverb G2 のケーブルは6mとかなりの長さがあり、延長ケーブル等を
用意しなくても取り回しは非常に良好であった。
まとめ
実際に使用しての Reverb G2 の長所と短所を簡単にまとめると以下の様な感
じでした。
-長所-
・圧倒的な解像度と忠実かつ良好な発色
・締め付けられず快適な着け心地
・側面に増設されたカメラによる左右に非常に広いトラッキング範囲
・長いケーブルによる取り回しの良さ
-短所-
・液晶であるが故の黒表現(コントラストも非常に良好とまでは言えない)
・特に左右についてやや狭めの視野角
・付属の新型コントローラの使い勝手の悪さ
・USB の接続のクセの強さ
最後に総評として、筆者が個人的にReverb G2をおすすめできるのは旧型の
WMRコントローラを所持しているあるいは手に入れる術がある人で、黒表現
や視野角に強いこだわりがなく、それでいて低予算で高い解像度を求める人と
いった感じであり、非常に人を選ぶ、クセのとても強いHMD だと感じました。
レビューは以上でとなりますが、ここまで長々とお付き合い大変ありがとう
ございました。